本来は戦わないと手に入らないプライズ。
それを、たまたま忍び込んだ先で偶然にも入手できてしまった女。
それはすごくラッキーなことで、女は嬉しかったが、同時に少し寂しくなった。
そのプライズは、女が手に入れたいと思っていたものと寸分違わぬものだったのに。
どうして?
*Q3 セルフリサイクルです。
転載元: 「【冒険ますか?リサイクル】a touch of magic on a day in spring」 作者: gattabianca (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/10358
*他の子と競い合って、「ボタンをください」とは言い出せなかった女が、たまたま見つけた彼のボタン。ラッキーだったけれど、少し寂しいプライズ。
卒業式も終わった3月、春休みのロッカー室に忘れた物を取りに行った女は、自分の教室の前を通り過ぎようとしていた。
もうこの教室に来ることはないんだな。最後にもう一度だけ、見ておこうか。
そんな思いに駆られ、女は、ほんの数週間前までごく日常だった自分の教室に、こっそりと忍び込んだ。
無人の教室は、少し前まで生徒の賑やかな声で満たされていたとは思えないぐらい、ひっそりとしていて、なぜか泣きたくなった。
ふと目が止まったのは、窓の近くのあの人の机。
人気者だったあの人。
目立たなかった私となんて、交わした言葉は数えるほどだった。
とても、他の女の子たちのように、卒業式の日に話しかけることなんてできなかった。
ましてや、その子たちと戦って、あの人のボタンが欲しいと願うことなんて、できるはずもなかった。
女は、もう二度と会うこともないあの人の席に腰を下ろし、一人頬杖をついてみた。
何気なく机の蓋を開けると、紺のボタンが隅の埃に紛れていた。
思いがけないプライズに、女は少し嬉しくなったが、その後すぐに、寂しくなった。
自分とあの人の距離を、関係を象徴しているようだった。
きっとこれは、神様からのプライズ。
今度誰かを好きになったら、ちゃんと一歩踏み出すようにというメッセージ。
だからこれは、戒めのために大事にとっておこう。
女はそのボタンをポケットに入れ、教室を後にした。
誰もいない教室は、春の暖かい光に包まれていた。
*オマージュ元は松任谷由実「最後の春休み」です。
世界観に加え、歌詞もそのまま(または少しアレンジして)解説に使いました。