「おはようございます!!田中です。」
「お、田中か。どうした?スマホ、繋がらなかったぞ」
「それが…昨日、スマホを温泉に沈めてしまいまして、、、」
「…は?温泉に?なんでだ?」
「妻の供養で、、、」
「供養?田中、お前最近疲れてるのか?」
なぜ田中は、温泉にスマホを沈めたのか?
転載元: 「なな」 作者: プレイボウル (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/10618「ここ、いつか絶対に行こうね」
旅行雑誌を視界いっぱいに広げながら、目を輝かせて、山奥の温泉旅館を指差す妻。
彼女は病に倒れ、その夢を叶える前に、この世を去った。
妻の死から数ヶ月後、田中はひとりその旅館を訪ねた。
夜中に、露天風呂の湯船に身を沈めていると、頭上には満点の星空が広がっていた。無数の光が、まるで妻の眼差しのように輝いていた。
田中は筋金入りの仕事中毒だ。
常にスマホを手放せず、妻との会話中でさえ視線は画面に向けられていた。
「携帯も仕事も忘れて、私だけを見て欲しいな」
彼女は、そのような文句こそ言わなかったが、常に寂しげな表情を浮かべていた。
妻と来ることはもう叶わない。
しかし、田中は、せめて「仕事もスマホも忘れる」ことだけでも、本気でやってみようと決意した。
彼は、ポケットから取り出したスマホを、ためらいなく湯の中へ沈めた。
それは、過去の自分との決別であり、妻への、あまりにも遅すぎた『本気の証』だったのだ。
その夜、星々はいつにも増して美しく輝いていたという。