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BS 死刑台行きウミガメのスープ

[ウミガメのスープ]

ある男が、とある海の見えるレストランで「ウミガメのスープ」を注文しました。
しかし、彼はその「ウミガメのスープ」を一口飲んだところで止め、シェフを呼びました。
「すみません。これは本当にウミガメのスープですか?」
「はい・・・ ウミガメのスープに間違いございません。」
その後、男は死刑になりました。
何故でしょう?

※本家ウミガメのスープのオマージュ、リスペクトです。


出題者:
出題時間: 2018年4月21日 20:00
解決時間: 2018年4月21日 22:32
© 2018 灰色ヤタガラス 作者から明示的に許可をもらわない限り、あなたはこの問題を複製・転載・改変することはできません。
転載元: 「BS 死刑台行きウミガメのスープ」 作者: 灰色ヤタガラス (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/1186
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男は、少し前まで、海賊船の船長でした。

ある日、海で、男は仲間の海賊たちとともに、荷物と金目のもの目当てに小さい旅客船を襲いました。
しかしその直後、大きな嵐が、海賊船と旅客船を襲いました。巨大な波が、2つの船を飲み込み、一瞬で叩き壊してしまいました。

気が付くと、船長の男と、男の同胞である海賊船の副船長、そして旅客船の乗客の1人だった男の、計3人が、小さな無人島に打ち上げられていました。
ろくな食料もなく、飲み物も海水ぐらいしかありません。近くに島の影なども見えません。このままでは、いずれ、3人とも飢えて死んでしまうでしょう。

旅客だった男は、嵐に遭う直前、目の前で、自分の妻を、旅客船に乗り込まれた海賊船長に、刀で刺し殺されていました。旅客の男はもちろん、海賊船長も、海賊副船長も、そのことを覚えています。
しかし、この状況では、海賊の2人も、旅客を殺している場合ではなく、また旅客も、妻の仇、と海賊2人に歯向かっている場合ではなく、救助を待つか、通りがかりの船を見つけて助けてもらうかしかありません。
しかし、それからしばらくのあいだ、助けが来ることはありませんでした。

何日ぐらい経ったでしょうか。ある日の朝、海賊船長が目を覚ますと、旅客の男が、ちょうどそこを泳いでいたウミガメを、鞄に入れて持っていたナイフを使って調理してスープにした……と言って、「ウミガメのスープ」を海賊船長に差し出しました。

しかし、同時に気付きます。昨日の夜まで島にいたはずの海賊副船長が、いなくなっていることを。

海賊船長が、副船長はどうしたのか、と旅客に聞くと、旅客は、分からない、朝起きたらいなくなっていた、と言います。夜の間に波にさらわれてしまったのではないか、と。しかし、そこで、この「ウミガメのスープ」。あまりにも、タイミングが良すぎます。まさか、海賊船長と副船長が寝ている間に、妻の仇とばかりに、旅客が副船長を殺して、人肉スープにしたのでは……という疑念が、海賊船長の頭の中に当然湧きます。
味などろくに分からないまま、飲み下す船長。そのおかげでだいぶ飢えをしのぐことが出来、それから少しして、近くを旅の船が通りかかり、海賊船長と旅客は救助されました。

しかし、副船長をスープにされた海賊船長の旅客への憎しみは、救助されたあとも消えませんでした。
旅客は、無人島内での生活の最中、名刺を落として、それを海賊船長がたまたま拾って、旅客には見つからないまま持っており、旅客の名前も住所もどこで働いているかも、すべて分かっていました。見つけ出して、すぐにでも殺してやりたいと、海賊船長は思っていました。

しかし、その前に、旅客に勧められるまで「ウミガメのスープ」を飲んだことがなかった海賊船長は、一度、別の「ウミガメのスープ」を飲んでみてやろう、と思いました。
旅客の男に飲まされたスープは副船長の人肉だと、海賊船長は9割がた確信していましたが、今一度、はっきりとそれを確認し、それによって、旅客への殺意をより高めてやろう、と思ったのです。

海賊船長は、これまでにも海でたくさん人を殺していた、「デッドオアアライブ(生死問わず)」の賞金首でした。なので、顔が周囲にバレないように、帽子とサングラスを身につけて変装したうえで、とある海のレストランに入り、ウミガメのスープを注文しました。

しかし……そうして出された「ウミガメのスープ」の味は、あのとき旅客に出された「ウミガメのスープ」と、ほとんど同じ味でした。
もちろん、細かいところはいろいろ違います。旅客はただのサラリーマンでありプロのシェフではなく、その男が海賊船長に出したウミガメのスープは、さして美味いものではありませんでした。店で出されたものとは、いろいろと違いました。
しかし、根本的な味は、だいたい同じでした。
副船長の肉と思いながら「ウミガメのスープ」を飲んだ時は、海賊船長はろくに味は分かりませんでしたが、店の「ウミガメのスープ」を飲みながら、急速に、無人島での「ウミガメのスープ」の味も思い出し、今、店で食べているのと、具材はだいたい同じだ、味付けが違うだけだ……と、ほとんど確信することが出来たのです。

海賊船長は動揺して、一口飲んだところで止め、シェフに「これは本当にウミガメのスープですか?」と聞きます。
しかし、「ウミガメのスープに間違いございません」と、シェフに言われます。

それを聞いて、海賊船長は、さらに確信を深めるしかありませんでした。
あのときの旅客は、嘘をついていなかったのだと。本当に、海賊副船長が波にさらわれた夜の翌朝、たまたまウミガメを見つけて、それを海賊船長のために調理したのだ、と。
旅客の妻の仇である、海賊船長のために。共に飢えて苦しみ死にかけていた海賊船長と、共に助かるために。

旅客をずっと疑っていた海賊船長は、後頭部を強く殴られたような思いがしました。
旅客に対してずっと抱いていた殺意が、急速に薄まっていきます。

そして思い出します、副船長も含めて、自分の仲間の海賊たちは全員、あの嵐で失ってしまったことを。
もう自分には、海賊は出来ない、海賊をする力も、資格もない、と海賊船長は思いました。

あのとき、旅客は、海賊船長に殺されることも覚悟していたでしょう。作ったウミガメのスープを自分で食べなかったために、旅客の方が餓死していた可能性もあったでしょう。なのに、命がけで海賊船長を助けてくれたのです。

レストランを出た海賊船長は、旅客に殺意を抱いてしまったことを悔やんで、旅客への償いの思いも込めて、そのまま、海軍に自首をしました。そして、その後、死刑に処されたのでしたとさ。


まとめ:男は元・海賊で、旅船を襲ったとたん、嵐で遭難して島に流れ着き、飢えて死にかけたことがあった。そのとき、一緒に遭難した、襲った旅船にいた客から、「ウミガメのスープ」として出されたものに対して、もう一人島に流れ着いていた男の海賊仲間を殺して作られたものに違いない、と当初は思い込んだ。しかし、救助されたのちにレストランで食べた「ウミガメのスープ」と同じ味だったため、あのときの「ウミガメのスープ」も本物だったと気づく。飢えをしのぐために「ウミガメのスープ」を作ってくれた人間に殺意を抱いてしまったことを悔やんで、また仲間を嵐で失った喪失感にも駆られて、賞金首だった男は海軍に自首をし、やがて死刑になった。


出題者:
参加するには または してください
パトロン:
アシカ人参
と 匿名パトロン 3 名
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Cindy