クレアは自殺未遂をした。
その事実を知ったアレンは、心臓が早鐘を打ち、ひどく動揺した。
そして深く悩んだ末、彼は死を望む人々を救うことに命を捧げることにした。
けれども、アレンはクレアと一度も会ったことはない。
見ず知らずの他人のために、どうしてそんな決意をしたのだろう?
転載元: 「一生一緒にいてクレア」 作者: アシカ (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/166高校生のアレンは、幼い頃から重い心臓病を患っていた。
無事に生き延びるためには心臓移植しかない。けれども彼の血液型はやや特殊なため、このまま成人することは絶望的だと思われていた。
しかしある日、アレンの家族に朗報が届いた。脳死状態のドナーがみつかった。しかも彼女は心臓の提供にサインをしており、アレンの血液型と適合しているという。
事態は急を要した。なぜ、これほど早く手術の準備がされるのか、どうしてゆっくり考える時間がないのか、振り返れば不可解な点はいくつもあったが、アレンの命が助かるチャンスは今しかなかった。オペは開始され、半日に及ぶ大手術の結果、移植は成功した。
大学生になったアレンは、医療専門のジャーナリストを目指して勉学に励んでいた。その原点は、自分が受けた心臓移植にあった。この手術によって多くの人々の命が救われている。しかし一方で、臓器売買の商人によって罪のない人々の命が奪われている。彼は、自分がどう生きるかについて悩んでいた。
自分に心臓をくれたのは、どんな人だったのか。それを知らないと、俺は前に進めない。
悩んだ末、そう結論づけたアレンは、自分のドナーを探し始めることにした。通常、ドナーとレシピエントが面会することは認められない。なぜならば、双方の人生に深い心的外傷を与えることになりかねないからだ。しかしアレンは、この手のことについては専門家であった。様々なジャーナルや文献を読み漁り、友人や大学のOB、教員の助けを借りながら、自分の手術の真相に迫っていった。
そうして彼は、断片的にドナーの情報を集めていった。名前はクレア。移植時の年齢は24才。地元の国立大学に通い、看護学科に所属していたらしい。一方で、自分が受けたのは画期的な移植手術であり、世界的に注目されたこと。その後何年も経って、当時の病院長が移植の成功例を増やすためにタブーすれすれの行為を働いていたことも明らかになった。しかし、彼女が脳死となった原因だけはどれだけ探しても見つからなかった。そこで彼は、彼女の住んでいたという街を訪ね、彼女の両親から衝撃の真実を告げられた。
クレアは重い鬱病を患っており、自殺未遂をした。
そして脳死状態となり、ドナーカードに基づいて、心臓が摘出された。
その事実を知ったアレンは、心臓が早鐘を打ち、思わず胸のあたりを強く掴んだ。
人を救おうとする心優しい女性が、どうしてそこまで追い詰められ、死を選んでしまったのか。
彼女が死を望んだからこそ、自分は生きていられる。だけど、クレアは死ぬことなんてなかった。
看護師として、自分なんかよりもずっと多くの命を救っていたかもしれなかった。
ごめんね、クレア。ありがとう、クレア。
出会ったことのない彼女を想い、アレンは涙が流れて止まらなくなった。
ひたすら大声をあげて泣き続けながら、アレンはどこか、胸のつかえがすぅっととれていく気がした。
全てを知ったアレンは、彼女の命を背負っていかに生きるべきなのか深く悩んだ。
そして、自然に胸に手をあてたことに気づいたとき、ようやく一つの答えに辿りついた。
アレンは卒業後、これまでの半生を一冊の本にまとめて出版した。その手記は世界的なベストセラーとなり、移植手術の抱える闇を深く浮き彫りにした。これをきっかけに、彼は医療ジャーナリストとして広く認められるようになった。その後、アレンは鬱やPTSDに苦しむ人々を精力的に取材し、広く問題を提起することに専念するようになった。
そう、彼は死を望む人々を救うことに命を捧げることにしたのだった。
一生一緒にいてクレア。
俺はこれからも、生きていくから。