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ビリビリ

[ウミガメのスープ]

ずっと前から根暗なお前が大嫌いだった

ちょっと優しくしてやったら勘違いしやがって

お前なんか友達でもなんでもない

もう今後一切話しかけてくるな


泣きながらこの手紙を読んでいるのは最近学校で非道いイジメを受けるようになった鼠屋敷さん。
手紙をビリビリに破りたかったが結局破らなかったのは何故だろう?


出題者:
出題時間: 2019年2月19日 21:28
解決時間: 2019年2月19日 21:47
© 2019 ダニー 作者から明示的に許可をもらわない限り、あなたはこの問題を複製・転載・改変することはできません。
転載元: 「ビリビリ」 作者: ダニー (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/2934
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[簡易解説]
手紙を書いたのは鼠屋敷さん本人。
自分と仲良くしていると親友にまでイジメ被害が及んでしまう。
親友を遠ざけるため、本心とは真逆の内容を書いたものの、
読み返してみるとやっぱり親友に離れていって欲しくないという
気持ちが湧き上がり、手紙を破いてしまいたいと考えた。
でも親友のことを第一に考え、手紙を破らずに渡すことを決意した。

その結果はどうなっちゃうのでしょうか?以下、本解説にて。








「それ離小島輝夫、だよね?」


雨が校舎を打ちつける音が響く放課後の教室。
帰っても待っていてくれる人がいない家に帰りたくなくて
唯一自分が癒される時間を過ごしている時に話しかけられた。


びっくりした。


鼠屋敷さんだった。


容姿端麗、天真爛漫、バスケ部キャプテン。
学校の成績は少し残念だが、そこが付け入る隙と誰からも話しかけられ
仲良くなってしまうクラスの中心的人物。


一つ訂正。誰からも、は違う。私は憧れるだけで話しかけることはできない。


その鼠屋敷さんの顔が、私の持っている本越しに私を見つめている。


「離小島輝夫」

私が今年一番の間抜け顔をしていると、もう一度鼠屋敷さんが天使の囁き声で
私が今読んでいる本の作者の名前を呟いた。


「え?あっ、いぅ…お?」

ぽかんと開いた口から意味不明な言葉が発声された。
だめだテンパり過ぎだ私。
何故かア行を全部言ってしまった。


「ア行しか出てないよ?」

そんな私に女神の美声で非常に的確なツッコミを入れた。
流石だ。女神はツッコミも達者。


「離小島輝夫の… 『愛と屍肉の埋まる庭』か。まだ読んでなかったの?」

「え?あ、あ、あー…」

「ふふっ、ア行はもういいよ?」

「えーっと… いや、5回目。うん、これ読むの5回目」

「5回⁉︎ そんなに好きなんだ?」

「えー… いや、うん。でも『カッティングパセリ』が一番好き」


そこまで話すと沈黙が流れた。ていうか鼠屋敷さんがだんだんと震え始めてきた。


「わかるっ!!!」


突然の大声に私は座っている椅子ごと後ずさって、
後ろの美山さんの机にクリーンヒットした。


「ご、ごめん。大丈夫?」

全然悪いと思っていない。顔が笑ってる。


そんな私の憮然とした表情を見て、

「全然悪いと思っていないな、って思ってるでしょ?」

エスパーか。


「アタシも『カッティングパセリ』! ていうか『カッティングパセリ』好きっていう人初めて会った。そもそも離小島輝夫を読んでる同級生は初めて」

「変?」

「そんなこといったらアタシも変ってことじゃん」

「え?あ、ホントだ… 変だね」

「…プッ、あっはっは!
はぁー… 下条さんって面白いね。で、『カッティングパセリ』は何回読んだの?」

「……8回」

「よしっ!」

何故か鼠屋敷さんがガッツポーズ。

「アタシ11回。12回目の202ページ目」

「変だね」

「あっはっは!」


そのあと私と鼠屋敷さんは見回りの先生に怒鳴られるまで離小島輝夫について語り合ったんだ。








すっかり晴れ上がった次の日。その放課後。


「ナオコー、一緒に帰ろう!」

「ちょちょ、ちょっと、ね、鼠屋敷さん! こ、こ、こっちきて!」

「ん?なに?」

「あんまりみんながいるところで話さないほうがいいよ」

「…え?」

「ほ、ほら、私ネクラだからさ。友達いないし。そんな奴と人気者の鼠屋敷さんが仲良くしてるとさ____」

「仲良くしてると、なに?」

私が話しているのを遮ったのは鼠屋敷さんのドスの効いた声。
なんだか私を睨みつけている鼠屋敷さんから視線を逸らし、声を絞り出す。


「ほ、ほ、ほら、みんなが変な目で見るっていうか、鼠屋敷さんの格を落とすっていうか____」

「やなこった!」


『カッティングパセリ』の登場人物マエゾノセイジ風に再度私の話を遮ったあと、
私と強引に腕を組み、そのまま教室を出ていった。
私を引きずりながら。








1ヶ月後。


「チューコ、ナオコ、バイバイ!」

「ナオコ、今度あの本貸してね」

「オッケー、休み明けに持ってくるね」

私はすっかりクラスに馴染んでいた。


恐るべし鼠屋敷パワー。
クラスの端っこで誰とも接触せずに1年間を過ごそうと考えていた私が
今や昼休みに机を合体させてクラスメイトと昼食を食べ、
恋バナに花を咲かせている。


1ヶ月、たったの1ヶ月で。


私があっという間の1ヶ月を頭の中で振り返っていると

「さてアタシ達も帰るべ」

チューコこと鼠屋敷さんが声をかけてきた。


「またボーッとして。なに考えてんの?」

「ん?いや、時間が経つのって早いなあって」

「昨日アタシのパパも同じこと言ってたよ。ナオコおっさん化現象を確認」

「いや確認しないで」

「………ナオコはさ、もともとみんなと仲良くなれる資質があったんだよ。ナオコが殻を被っていただけ」

………また私の心を読む。エスパーか。


「そんなナオコの資質をぶあつーーーい殻の中から見抜いたアタシ。アタシスゴイ、ゴイスー」

「ふふっ、はいはい」


そうだよ。ホントにチューコはスゴイよ。とっても感謝してる。ゴイスー。








それから更に1カ月。


事件が起こった。








鼠屋敷、シネ
ウザい
消えろ



チューコの机に刻まれた罵詈雑言。


きっかけはある男子生徒の告白だった。


その最低男は彼女持ちにも関わらずチューコに告ってきた。
チューコはばっさりその最低男を振ったのだが、
その最低男の最低っぷりはとどまるところを知らず、
付き合っている彼女への言い訳に「鼠屋敷に誘惑された」と説明。
最低男に一途な彼女は、チューコに対してさまざまな嫌がらせをするようになった。


特にSNSを使ったチューコのネガティブキャンペーンが効果的で


そして


チューコはイジメの対象となってしまった。








「……チューコ、一緒に帰ろ?」

「・・・」

「ちょ、ちょっとナオコ、鼠に話しかけんなって」

「そうだよ、ナオコも同じような目にあうよ」

「え?」


ガタッ


私が友人達の言葉に戸惑っている間に、荷物を素早くまとめて教室を出て行くチューコ。


友人の制止を振り切って追いかけた時にはすでにチューコの姿は見当たらなかった。








翌日。
朝の学校の玄関。


ずっと前から根暗なお前が大嫌いだった

ちょっと優しくしてやったら勘違いしやがって

お前なんか友達でもなんでもない

もう今後一切話しかけてくるな


私の下駄箱に入っていた手紙だ。
チューコからの手紙。非道い言葉のオンパレード。
私はこの手紙の内容を額面通りに受け取るほど愚かではない。

………嘘だ。グサッときた。かなり刺さった。非道いよチューコ。
でも今まで読んだ本たちが教えてくれる。この内容は嘘だと。

それに。

もう今後一切話しかけてくるな、の部分は濡れて文字が滲み、
解読が必要な程だった。


頭にきていた。
相当怒っている。
今まで怒りという感情を表に出すことがなかったからだろうか。
多分鏡を覗けば私は耳まで真っ赤だろう。
ドスンドスンと効果音がつきそうな勢いで地面を蹴飛ばし前へ進む。
ムカつく。
全てがムカつく。
最低男にも、その彼女にも、クラスメイトにも、チューコにも、
そして、
あの時教室を出ていったチューコに追いつけなかった自分自身にも。


ドスン!


チューコが突っ伏している机を両手で勢いよく叩きつける。
のろりと、チューコが顔を上げた。


私は今まで彼女の目の下、ほっぺのあたりにいつも視線を置いていた。
彼女の目は眩しすぎてそのくらいがちょうど良かった。


今はしっかりと彼女の目を見つめる。


ちょっとやつれた、それでも端整な顔立ち。
その眼前に彼女から送られた手紙を突きつける。


その手紙を半分に、重ねて半分に、重ねてまた半分に、更に重ねてまた半分。
彼女の目の前で1枚の紙を16枚の小片にした。まあつまりビリビリに破いてやった。


そして今までの人生で出したことのない声量で
ちゃんとチューコのぶあつーーーい殻の中心にまで届くように








私は叫んだ。








「やなこったーーーーー!」








出題者:
参加するには または してください
パトロン:
アシカ人参
と 匿名パトロン 3 名
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Cindy