初恋はさよならを連れてくる

[ウミガメのスープ]

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それから男は、交差点で携帯電話を使わなくなった。

状況を補完してください。


出題者:
出題時間: 2019年3月12日 11:27
解決時間: 2019年3月12日 11:56
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! やたら長いので下に要約解説があります !
●を目指してスクロールしてください。

交通事故の多い交差点。男がそこで半透明の少女を見つけたのは、半年前のことだった。
 期待できらめいた少女の顔を、男はいまだにはっきりと思い出せる。
「……お兄さん、目が合いましたね?」
 男は困惑した。幽霊に返事をしていいものか。周りには信号待ちの人や携帯電話をいじっている人がいる。少女に気が付いている様子の人は一人もおらず、ここで男が応えれば、独り言を言う不審者だと思われることうけあいだ。
 なにも言えないままでいると、少女の眉が仔犬のように悲しげに下がった。男はひらめいた。
「えー、テステス」
 携帯電話をポケットから取り出し、耳に当てる。誰かがチラリと振り向いたが、なんだ電話か、という目をしてすぐ興味をなくしてくれた。男の思惑通りに。
「…………お兄さん、見えてる?」
「あー、うん。バッチリ」
 それが、男の少女の初めての会話だった。

案の定、少女は交差点で起きた交通事故で亡くなった人間らしい。
 地縛霊になってしまったのか幽霊歴が浅いからなのか、家に帰りたくても帰れないのだと彼女は言っていた。
 男も男で幽霊と知り合いになるなんて初めてであるため、二人の間の空気は始めぎこちなかった。

ホラー映画のように男を呪ったりする様子もなかったので、折を見て男は少女に会いに行った。彼女はなんの力も持たない、ただの寂しい子供だった。供えられた花束に切なくも優しい目で手を伸ばし、触れられず、諦めたように笑う子供。

「成仏ってそんなに難しいのか」
「やったことないからわかんない。お兄さんは?」
「俺もやったことないからわからないけど……未練とか関係あるんじゃない?」
「うーん……私ね、そういえば初恋まだだったんだ」
「初恋?」
「心残りといえば心残りかも。好きってどんなかんじか、ちょっとだけでも知りたかった」

まだ生きている男に言える言葉は、何もなかった。

3ヶ月経ったある日、少女は唐突に切り出した。

「お兄さん、私成仏できそう」
「……そうか。おめでとう」
「へへ、ありがとう。急なんだけど、今日でさいごだと思う」
「今日で」
「お兄さんのおかげだよ。うっかり成仏しそこねちゃってこんなところに縛られちゃったけど、一人ぼっちじゃなかったから」
「……そうか。それなら、よかった」
「ありがとう。見られてるの恥ずかしいから、お兄さんが帰ってからいくね」
「わかった。……こんなこと本人に言うのも変かもしれないけど、君の冥福を祈るよ」
「ううん、嬉しい。……じゃあ、さよなら!」

翌日。あれほど離れられないと言っていた交差点から、少女の姿は消えていた。
 それから男は、交差点で携帯電話を使わなくなった。


●要約解説(ここで漸く!)●

周りに怪しまれないよう、携帯電話ダミーに使って会話していた相手である幽霊成仏した。
話す相手のいなくなった男は、交差点で携帯電話を取り出すことはなくなった。


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パトロン:
アシカ人参
と 匿名パトロン 3 名
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Cindy