子の心親知らず

ある村で宿屋を営む母親を残し、息子は街に働きに出た。

十数年後、息子は見違えるほどに立派な大金持ちとなって村に帰ってきたのだが、そのことを知った母親は自殺した。

なぜだろう？

十数年ぶりに故郷の貧村に帰ってきた男は、一晩だけ身元を偽り、母親の宿屋に客として泊まることにした。街で稼いだ大金で母親に贅沢な暮らしをさせてやるつもりだったのだが、その前に母親を驚かせてやろうと考えたのだ。

男は見違えるほどに立派な金持ちの出で立ちをしていたため、母親は男が息子であると気づかない。そこまでは男の予想どおりだったのだが、その晩、男が予想だにしない事態が起きた。

貧困に苦しむ母親が男から金品を強奪するために、客室で寝入っていた男を殺害してしまったのである。

男の荷物を物色していた母親は、その身元が記載された通行証を発見し、男が十数年ぶりに帰ってきた息子だったことを知る。容姿の変化に気づかなかったとはいえ、我が子を殺めた事実を悟った母親は、絶望の果てに自殺したのだ。