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Another shot before we kiss the other side

[ウミガメのスープ]

私は弁護士の相川桂。自分で言うのもなんだが、正義感は強い方だと思っている。弱い立場の人を救える、そう信じて弁護士になったつもりだ。
私は、市民のために無料電話相談を行なっている。先日から、何度かDVの被害に悩んでいる主婦、西山水無子から相談を受けるようになった。私は、今度被害を受けたら被害届を提出するように、とアドバイスしていた。しかし、残念ながら、また彼女は暴力を振るわれてしまった。幸い怪我は大したことなかったが、それもあってか加害者の身柄は拘置所に送られず、自宅に帰されてしまった。私は、西山にどこかに身を隠すことを提案しようと思って彼女に連絡したところ、反対に、「先生、お願いします。あの人の弁護をしてください。」と頼まれた。本来であれば、被害者から相談を受けていたのに、加害者の弁護をするというのもおかしな話だが、彼女があまりに頼むので私は西山の夫に会う事にした。結局、私は彼に3回面会した。その度ごとに彼はとてもとても丁寧に、礼儀正しく挨拶した。3回もだ。そうだ。確かにこういうタイプの人もDV加害者にはいるのだ。

「先生、あの人を弁護してください。あの人に刑務所に行ってほしくないんです。」「わかりました。引き受けましょう。」特に西山に高額の依頼金を積まれたわけでもないし、そもそも私は金で心が動かされるような弁護士ではない。どうして私が弁護を引き受けたのかわかるだろうか。

*臨場感?のために一人称で記載していますが、龜夫君ではなく、通常のウミガメのスープ問題として質問してください。
*法律的な知識は(多分)不要なので、気軽にご参加ください。むしろ、専門的には若干正しくない部分があるかもしれません。その点については御容赦ください。


出題者:
出題時間: 2020年12月26日 19:50
解決時間: 2020年12月26日 20:49
© 2020 gattabianca 作者から明示的に許可をもらわない限り、あなたはこの問題を複製・転載・改変することはできません。
転載元: 「Another shot before we kiss the other side 」 作者: gattabianca (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/5260
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裁判で、被告人に有利な条件として認知症の夫に福祉サービスを受けさせることを弁護士に提示してもらいたかったため。

「西山亀之助さんですね?弁護士の相川です。」
「はい、西山と申します。西山水無子の夫です。日頃より家内が大変お世話になっております。」
呆れた。全く他人事だ。
面談の途中で、急な電話に対応するため一回私は席を外し、また応接室に戻った。
「失礼しました。亀之助さん。」
「あ、私の名前をご存知なのですね?(水無子、こちらは…?)あ、弁護士の先生でいらっしゃいますか。大変失礼いたしました。お初にお目にかかります。西山亀之助と申します。この度は、色々とご面倒をおかけいたします。」
私は衝撃を受けた。この人は数分前に会った私のことを覚えていない。
しばらくして、別室に資料を取りに行くため、もう一度一瞬席を外した。部屋に戻ったら、亀之助は私に再び恭しく挨拶した。
**「大変失礼ですが、水無子のお友達でいらっしゃいましたでしょうか? あ、弁護士の方でしたか。申し訳ございません。はじめまして。私、水無子の夫で西山亀之助と申します。何かとご相談させていただきたいと思いますが、くれぐれもよろしくお願い申し上げます。」
**
私は、2時間かけて何とか面談を終えた。

西山水無子78歳。その夫亀之助83歳。水無子によると、亀之助は、若い頃は優秀なセールスマンだったが、3年前に認知症を患ってからというもの、感情のコントロールが効かなくなったとのことだった。適切な医療も福祉のケアも受けず、症状は悪化し、それに伴って水無子に暴力を振るうことも増えてきたという。そして、水無子以外の人と接することもない単調な生活は、亀之助の様々な機能を低下させていった。例えば、人の顔も覚えることもできなくなった。かつて何百人も顧客のことを明確に覚えていた亀之助が、である。1回の面談で3度も私に丁寧な自己紹介をするほどに。
その後、私は彼に2回面談したが、毎回私のことを忘れていたし、席を外すたびに、自己紹介をした。そう、1回の面談につき、3回ずつ。

「先生、あの人を刑務所に行かせたくないんです。でも私一人ではどうしようもできません。先生なら、あの人に何が必要か一緒に考えてくれると思ったんです。お願いします。」

確かに暴力は許されるべきではない。しかし、この人に本当に必要なのは刑罰なのか。私は弱者を救うために弁護士になったのではなかったか。ここで弱者と呼ばれるべきは誰なのか。再び信念に立ち返った私は、私は西山亀之助の弁護に立つ事にしたのである。

*最近高齢者の犯罪が増えていることから、弁護士が福祉的な支援の手筈を整え、そこに通わせることを条件に、実刑にしないように弁護することもある…という記事をネットで見ました。


出題者:
参加するには または してください
パトロン:
アシカ人参
と 匿名パトロン 3 名
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Cindy