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こだぬきのすぅぷ

[亀夫君問題]

子狸は、ニンゲンに捕まったけれど逃げてこられました。なぜでしょう?


出題者:
出題時間: 2021年12月26日 19:59
解決時間: 2021年12月26日 21:42
この作品は
CC BY 4.0
の下で公開されています。
転載元: 「こだぬきのすぅぷ」 作者: 丼 (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/6819
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(こたえ) ニンゲンが、順番をまちがえたから!(ポンタ)

【補足】

暗い暗い冬が、風呂敷のような影をひろげた、ある寒い夜のことでした。
子狸はほのかな暖かさを感じて、目を覚ましました。
かすかに覚えているのは、真っ暗な空と身を打つ冷たい雨。
そうだ、寒くて、お腹が空いて、道端で動けなくなったんだっけ。

ここはいったいどこなんだろう?
子狸は、小さい頃に巣穴でお母さんに包まれていた時の温もりを思い出しました。
冷え切った小さな身体がしだいに温まり、じかじかとした感覚が次第に戻るのを感じながら、子狸は心地よい感覚に、しばしまどろみました。

♫ ひくい うなりが きこえたら
♫ ニンゲン でてきて つかまるぞ
♫ よつあし とられ しっぽも とられ
♫ さいごは やつの はらのなか

子狸が眠る時には、母さん狸はやさしい声で歌ってくれたものでした。
「恐ろしいケモノは色々いるけれど、ニンゲンのニオイには、一番に気をつけなさい」
母さん狸に抱かれながら、子狸は繰り返しそう教わったのでした。

ふと、鼻をひくつかせた仔ダヌキは、獣の臭いを感じとりました。
子狸はそこに母さん狸を求めたのですが、どうしたことか、鼻についたのは人間の臭いでした。

「しまった」子狸は逃げようとして、とっさに四つ足をばたつかせました。
しかし、その小さな足はセーターの毛に絡めとられ、さらにはコートの上から押さえつけられたので、子狸はまた、身動きが取れなくなりました。
「腹ん中だ。うなり声も聞こえないのに、四つ足もしっぽも残ってるのに、何でかぼくはニンゲンの腹の中に捕まっているんだ」
必死の思いで、子狸がもう一度ありったけの力を込めると、両の前足と後ろ足がすぽん、すぽん、と抜けてしまいました。
子狸は驚いてさらに身体をひねろうとしましたら、今度はしっぽと頭がすぽん、すぽん、と抜けてしまいました。
そして、子狸は元の四つ足の身体から、白いまんまるな身体へと姿を変えました。

「もしかして、これはご先祖さまが会得したという、ヘンゲの術なのかしら。」
最初は驚いた子狸でしたが、不思議と元気が出てきましたので、えい、と身体に力を込めました。
雨の冷たい音も、身体の痛みも、すべてがぱっとなくなり、子狸の身体は難なく宙へと浮かびました。

一寸ほど開いた、人間の首元の隙間からころりと這い出ると、そこには人間の大きな顔がありました。
その人間の男は、空を見上げて低く唸っているようでしたが、子狸には何にも聞こえませんでした。
「ニンゲンは順番を間違えたのね。今さら慌てて唸り出したみたい」
男は涙を流していましたが、たちまちに降る雨に洗われて、それにも子狸は気がつきませんでした。
「それに、ニンゲンにはぼくの姿がまるで見えていないみたい。ヘンゲの術は具合がいいや」
白いまんまるな身体をすうとひるがえすと、子狸は空へと飛び立ちました。

「お星さまは、あんな低いところにも落ちてるのね」見下ろす町の灯に、子狸は思いました。
そして、先ほどの人間のことを思い出しました。
「お母さんは、ニンゲンは恐ろしいものだって仰有ったがちっとも恐ろしくないや。だって順番をまちがえて、ぼくを捕まえておけなかったんだもの」子狸は思いました。

子狸がしばらくただよっていると、自分よりだいぶ大きな、白いまんまるに出会いました。
「狸はヘンゲができるというはなしは、やっぱり本当だったんだ。そら、ご同胞がいらっしゃる」
子狸はまっすぐにそのまんまるに近づいていきました。
「こんばんは、ご同胞。滝山の里の子狸です。ヘンゲの術を会得して、ここまで参りました!」
大きくて白いまんまるは、驚いたようすでしたが、ほのかに赤らんだ色になりました。そうして子狸を導くように、どんどん空を上がっていきました。

分厚い墨を垂らしたような雲の上に出ると、一段と大きな満月が子狸たちを照らしました。
「あの大きなおつき様も、ぼくらのご先祖がヘンゲしたものなのかしら」
子狸がつぶやくと、大きなまんまるは今度はフクシアの花のように赤らみました。
そうして、ふわふわと弾みながら、仲間のまんまるたちの元に、この小さなお仲間を連れていきました。
まんまるたちにあいさつを済ますと、月灯りに照らされながら、子狸は問いました。
「子狸は、ニンゲンに掴まったけど逃げてこられました。なぜでしょう?」
「どうしてだろう」「なぜかしら」尋ねてくるまんまるたちに、子狸は一生懸命答えました。

ふと、子狸が空を向くと、月の端から、子狸よりひとまわり大きなまんまるが、こちらを覗いていました。
「お母ちゃんだ!ぼくを迎えに来てくれたんだ!」子狸は、すぐに気づきました。
「みなさん、ぼく、もういかなくちゃ。いっぱい遊んでくれて、ありがとうございました!」
ちょこんとお辞儀をすると、子狸の魂は、コバルトの影を引きながら銀色の月に吸われていきました。

お母さん狸は、心配しながら、坊やの狸の上がって来るのを、今か今かと待っていましたので、坊やが来ると、抱きしめて泣きたいほどよろこびました。
「母ちゃん、ニンゲンってちっとも恐かないや」
「どうして?」お母さん狸はたずねました。
「ぼく、ニンゲンに捕まっちゃったの。でも飛んで逃げられたんだよ。なんでだと思う?」
「あら、それはなぞなぞ?」
「そう!お空のご同胞にも聞いたんだけど、みんな優しく遊んでくれたよ。」
もう一度下の様子をのぞきこんだお母さん狸は、「まあ!」とあきれましたが、「ほんとうは人間はいいものかしら。ほんとうに人間はいいものかしら」とつぶやきました。

——暗い暗い雲の下、止むことのない氷のような雨の下。
そこには、涙を流しながら低い声で、子狸のために経を読み続ける男と,
その懐に抱かれ、動かなくなった小さな亡骸だけが,残されたのでありました。

(時雨 東吉(しぐれ とうきち)『君にささげたうた』より)


出題者:
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パトロン:
アシカ人参
と 匿名パトロン 3 名
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Cindy