閲覧者数: ...

群青色の決意

[ウミガメのスープ]

同居しているが恋人気分を味わいたいがために、ある日深泥市駅の中央改札口前で待ち合わせをすることにしたシン太郎とカメコ。
先に家を出たのはカメコであったのだが、待ち合わせ場所でシン太郎はカメコを10分も待つことになったのはなぜ?

但し、カメコは道に迷ったり寄り道したりしたわけではなく、極力立ち止まることなく最短距離で待ち合わせ場所に向かったものとする。

sp:関西オフ会参加者の豪華メンバーの方々です、感謝!


出題者:
出題時間: 2022年6月4日 11:12
解決時間: 2022年6月4日 11:42
この作品は
CC BY 4.0
の下で公開されています。
転載元: 「群青色の決意」 作者: エルナト (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/7420
タグ:

カメコは家の最寄りである水平駅に着くとすぐホームに滑り込んだ電車に乗り込んだが、その電車は各駅停車であった。
その後家を出たシン太郎は快速電車に乗り込んだため、目的地である深泥市駅に先に着いたのである。

***

人混みで溢れかえる深泥市駅の中央改札口──そこを抜けると一際大きなウミガメのモニュメントが立ちはだかる。
西口や沿岸口などもあり巨大なターミナル駅である深泥市駅においては、そういった目立つモニュメントは待ち合わせ場所として有効活用される。

「ごめん、待った?」

カメコがそう言ってシン太郎の肩を叩くと、彼は少しだけ逡巡して答えた。

「ううん、全然」

一瞬の静寂の後、二人は同時に笑い出した。

「てか、なんでそっちが先に家出たのに、遅れて着いてんだよ!!」
「ごめんごめん、だって、駅着いたらすぐ電車来たから慌てて乗り込んだら、普通電車だったんだもん」
「ったくもう、どんだけドジっ娘なんだよおまえは。まぁ良いや、ほら、いくぞ」

そう言って踵を返し歩き始めたシン太郎の後を、カメコは急いで追いかける。

「ちょっと待ってよシン太郎!」

その呼びかけに応じてか否か、シン太郎は振り向かず立ち止まる。
勢い余ってその背中にぶつかりそうになったカメコは、すんでのところで踏み留まった。

「どうしたの?」

頭上を見上げるシン太郎を見て、カメコも空を見上げた。
ビルの群れの合間に聳え立つ群青色のタワーは、今日も私達人間をまるでちっぽけな存在であるかのように見下ろしている。

「もう、あれから5年も経つんだな」

カメコは、少しだけ笑った。

「なに、哀愁感じちゃってる? らしくないなぁ」
「そんなんじゃねえけど。あのさ……久し振りにタワー昇ろうぜ」

──5年前の今日。二人がまだ恋人ではなかったあの時。
この駅で待ち合わせ、そしてタワーの上でシン太郎が告白し、二人は晴れて恋人となった。
高鳴る心臓の鼓動がバレないように必死で冷静を保ちながら、シン太郎は言った。
上着のポケットに両手を突っ込み、その中に隠し持った小さな箱を確認する。
大丈夫。落とすようなヘマはしていない。

「……なんか今日、本当にらしくないね。一緒に住んでるのに待ち合わせしようっていったり、急に空見上げてなんか哀愁感じちゃったり」
「バカッ、5年も付き合ってきたからこそ、マンネリしないようにだな、たまには良いかなって思ってさ」
「ふーん、そう、ま、良いけど別に」

こういう時、やはり女性は普段との微妙な雰囲気の違いを読み取ることに長けているのだろうか。
もしかしたら今日この日のためのシン太郎の覚悟も全て、見透かされているのかもしれない。
シン太郎は、ごくりと喉を鳴らした。

──5年も付き合ってきたんだから、きっと大丈夫。
そう自分に言い聞かせた。
そして予想以上に緊張している自分に情けなくなった。
こんなんだと、仮に女性じゃなくたって気付いてしまうかもしれない。

いや──それでも構わない。構わないんだ。
だから、こんな情けない僕に、どうか勇気をください──。

もう一度、右手を服の中で握りしめた。

.

ポケットの中の小さな小さな宝石の付いた銀色の指輪は、光に照らされるその瞬間を今か今かと待ちわびている。


出題者:
参加するには または してください
パトロン:
アシカ人参
と 匿名パトロン 3 名
Donate using Liberapay
Avatars by Multiavatar.com
Cindy