「Hibari-san、さっきまでひどい雨だったのにもう上がりましたね。」
そう逆瀬川雲雀に声をかけてきたのは、逆瀬川の部署にインターンとしてきているダルバージ君だった。
逆瀬川の働く国際協力機関では、隣国との紛争で荒廃したダルバージ君の母国の支援を行っており、今回のインターンシップもその一環だ。
オフの日、二人が町を散歩していた時のことだった。
「そう、あなたはAutumnに日本に来たいと言っていたでしょう?だからこの時期に来られてよかったわね。」
「ここの雨はあまり長く続かないのですか?子供たちがもう外に出てきています。僕の国では雨季になるとなかなかすっきり晴れないものだけど。」
「そうね。特にこの時期の天気は女性の情緒不安定に喩えられることもあるぐらいで変わりやすいの。そんなのジェンダー的には…あら、ダルバージ君、何を見ているの?」
「Hibari-san、ここはうちの団体の出先ですか?」
「え、違うよ。どうして?」
さて、なぜ、ダルバージ君はそんなことを言ったのだろう?
*百人一首 その八十七【むらさめの つゆもまだひぬ まきのはに きりたちのぼる あきのゆふぐれ】からのinspireです。
*逆瀬川の勤務先は多国籍職員が所属する、世界各国に事務所を持つ国際協力機関です。
その活動内容は過去問にも出てきますが、特に知らなくても解けます。
転載元: 「water like misery」 作者: gattabianca (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/9686
*運動会で、万国旗がはためいているのを見て、なんらかの国際機関だと思ったから。
「なんで普通の学校にいろんな国の国旗が?普通そういうのは、国際機関とか国際会議場にあるものじゃないんですか?」
「ああ、今日は運動会、Sports festivalみたいね。」
「なぜ、運動会だと万国旗が?」
「…思えばなぜかしらね。小さい頃から普通だったから、考えてみたこともなかったわ」
「そう…ですか…」
「言われてみたら、他の国の学校で飾ってる所はあまり見ないかもね」
逆瀬川は、「ダルバージ君の国では…」と尋ねようとしてやめた。
彼の国のほとんどの学校が紛争で壊滅してしまったことぐらい、逆瀬川だって知っている。
ましてや運動会など開けるわけがない。
そして、それだけ他国と複雑な関係にある国では、学校行事の単なるデコレーションとして万国旗を飾るなんて、デリケートすぎてなかなかできないことだろう。
そんな逆瀬川の思いを察したかのように、ダルバージ君は言葉を発した。
「Hibari-san、僕は祖国に学校を建てたいと思います。そして、いつかこうして万国旗をはためかせて、運動会をしたいと思います…雨だって、いつかは上がるんです」
「そうね。応援するわ」
二人は、雨上がりの少し湿った道を進んでいった。
子供たちの歓声が上がる校庭では、青い空の下、ダルバージ君の母国の旗と、隣国の旗が隣り合わせではためいていた。
*inspire元における「まき」とは、「良い木材になる木」を指す。
*ダルバージは、ローズウッドの学名Dalbergiaより。
ローズウッドは芳香植物でもあるが、良い木材としても知られる。
高級木材であるため、治安の悪化した地域では、犯罪集団等による違法伐採の対象になりやすい。
*祖国はシンディア国か。